恋口の切りかた
「どうです? もしもお斬りになりたいとお考えであれば──」


まるで仏の道を妨げるという天魔のように──

──と言っても俺は別に仏じゃないが──


──遊水は甘い声でささやいた。



「お相手を用意いたしましょう」



「な──!? てめえ……」

思わず腰を浮かせると──


「おっと、こいつァ漣の字……じゃあもうなかった、円の字の旦那」

突然背後から声をかけられて俺はぎょっとなる。


振り返ると、見知った貸元の親分が、子分衆を引き連れて店に入ってくるところだった。


「おや、誰と飲んでなさるかと思えば、遊水じゃァねェですかィ。

旦那ァ、遊水とお知り合いで?」


貸元の口から飛び出した意外なセリフに俺は驚く。


遊水はことりと杯を盆の上に置いて、

「これはこれは、銀治郎親分さん、いつもごひいきに」

と丁寧に頭を下げた。

「おう、また何かあったら頼むぜ」

気安い口調でそう言って、
貸元は禿頭の主人に案内されて奥の座敷に行ってしまった。
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