恋口の切りかた
「てめェ……」

俺は再び杯をかたむけ始めた男を穴が空くほど見つめた。

「虎鶫(とらつぐみ)の銀治郎と知り合いか?」

「ええ、『お得意様』でして」

「……ヤクザが金魚を飼ってる
ってワケじゃねェよな」


虎鶫の銀治郎は、この辺り一帯を縄張りにしている一家の親分だ。

まあ、金は掃いて捨てるほど持っているだろうから、高級品である金魚も買えないことはないだろうが……。


「てめェ、ただの金魚屋じゃねえな──?」


こっちの筋の者か──!?


「私が虎鶫一家相手にどのような商売をしているかは、後で親分さんにでも直接聞けばよろしかろう」

御三家筆頭の上流階級から裏街道の人間までを得意先に持つ金魚屋は、杯に視線を落としたままそう言って、


それから

「お返事をお聞きしていませんが」


翠玉の輝きを持つ双眸を俺に向け

あの問いを繰り返した。
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