恋口の切りかた
【剣】
不思議な金魚屋さんから、父上に可愛い金魚を買っていただいた翌朝──
朝餉(あさげ)の前に池を見下ろして、私は泣きそうになった。
「エンちゃん、エンちゃん!」
大騒ぎしながら円士郎を探していると、
「……ちゃんはやめろっつってんだろ」
ボサボサ頭の円士郎が
はだけた寝間着姿の胸元をボリボリかきながら自室から出てきた。
寝起きなのか、もの凄く不機嫌そうだ。
「何だよ、朝っぱらからうるせーな。俺は眠ィんだよ」
「あれ? まだ寝てた?」
めずらしいな、と私は思う。
円士郎はいつも兄弟の中では一番朝が早くて、
しかも朝からやたらと元気で、
道場で稽古とかしてたりして
私なんかに比べると寝起きは相当いいほうなのに。
「エンちゃ……じゃなかったエン、昨日遅くまで起きてたの?」
昨夜、円士郎は早々に自分の部屋に引き上げていったと思っていたのだけれど。
読み物でもしてたのかな。
「んーまあ、ちょっとな……」
円士郎は一瞬視線を逸らして、歯切れの悪い返事をした。