恋口の切りかた
「エン、金魚が大変なんだよ」

「キンギョ?」

「いいから、来て!」

私は寝間着のままの円士郎を引っ張って、庭の池の前まで連れて行った。



「……なんで池?」

円士郎はキョトンとした。


「ここにいるのは金魚じゃなくて鯉だぜ? 金魚はホラ、昨日お前がでかい鉢に……」

「移したの」

「──あ?」

「鉢よりも池のほうが広くて金魚も喜ぶかなって、昨日の夜雪丸と話してて……」


そこに来た父上にも相談したら、おお、そうしろそうしろって言うものだから、雪丸と二人で池に放したのだ。


「そしたらね、今見たら……」

私はまた泣きそうになりながら池を指さした。


「金魚……は、確かに一匹も見当たらねェわなァ……」

のびのびと大きな鯉たちだけが泳ぐ池を見下ろして、円士郎はぼう然とつぶやいた。
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