恋口の切りかた
【剣】
雪丸には金魚が見当たらないことは伏せておいて、
「あねうえ、キンギョー」
と、池を見たがる雪丸の興味を必死にそらして──
私は円士郎が言うように、隠れていた金魚がどこかから出てくるのを待っていたのだけれど。
午後になって、
金魚の様子を見に今日も訪ねてくれた金魚屋さんが、
「ダメですよ、こんなに大きさの違う魚同士を一緒にしては。
かわいそうに。鯉ってのは口に入るものは食べちまいますから」
池を見下ろしながら顔をしかめてそう言うのを聞いて、
私は金魚たちに土下座したくなった。
「ああ、泣かないで下さいな。こいつァ、ちゃんと説明しとかなかった俺の失敗だ」
そう言われても──
昨日は優しそうだった金魚屋さんも苦々しい表情を浮かべていて、
私はとんでもないことをしてしまったと思って、涙が止まらなかった。
ひどいことしちゃったよぅ。
うう……金魚さん、ごめんなさい。
そうしたら──
さすがに人前で朝みたいに抱きしめられたりはしなかったけれど、円士郎はまたよしよしと私の頭をなでてくれて。
「朝からこの調子だ。悪ィがもう一回、金魚売ってくれねェか」
彼が金魚屋さんにそう言うのを聞いて、私はびっくりした。
昨日はあんなに反対してたのに。
朝のことと言い、──今日の円士郎は何だか変だ。
妙に優しかったり、私のことからかったり……。