恋口の切りかた
二、人斬り円士郎
【剣】
その日は夜が更けてもなかなか寝付けず、私は夜中に布団を抜け出して部屋の外に出た。
月明かりのせいか、辺りは薄ぼんやりと浮かび上がって見える。
庭でも眺めようかと、廊下を歩いていた時のことだった。
円士郎の部屋の前を通りかかった私は、彼の部屋の障子が薄く開いているのに気がついた。
「エン……?」
呼びかけてみたが中から返事はない。
何故か気になって、私は隙間からそっと部屋の中を覗き込んだ。
部屋の中はもぬけの空だった。
使用された形跡のない布団が、敷かれた時のままの状態で存在しているのみで、円士郎の姿はない。
エン──?
こんな夜中に……どこに行ったのかな……。
正体不明の不安が、背中を這い上がってきた。
ふと、視線を外に向けて──ぞっとする。
屋敷の屋根の向こうに浮かんだ、上限の月が見えた。
沈みかけた弦月は、
まるで血のしたたりそうな、真っ赤な色に染まっていた。