恋口の切りかた
落ち着かない気分で、何となく道場のほうへ向かった私は、渡り廊下のところで平司を見つけた。

平司は、一人でじっと雨を見つめていた。
何かを睨みつけるような視線だ。

怒りとも悲しみともつかない感情が、瞳にちろちろ揺れている。


一緒に暮らすうちに、私は時々平司が──特にこういう雨の日になると──暗く沈んだ表情を見せることに気がついた。

どうしてなのかはわからないけれど、今日みたいな日は大抵、雨を見つめて一人物思いに耽る平司を見かける。


「姉上、いかがなさいました?」

やがて、渡り廊下の端に立った私の存在に気づいて、平司はこちらに歩いてきた。

瞳に揺れていた感情は消え、いつもの真面目な平司になっている。


「随分と暗いお顔ですが」

どうやら平司よりも私のほうが陰気な表情を作っていたらしい。


私は、迷いながら口を開いた。

「平司はさ、エン……兄上の剣の腕をどう思う? 強いと、思う?」

私からの突然の問いかけに戸惑った様子を見せつつも、平司は
「思いますね」
と頷いた。

「兄上は強いです。姉上も強いですが」

やだな、と思った。

私、何を気にしてるんだろう。
何でこんなこと聞いてるんだろう。
何で、

剣に秀でた者の仕業、という遊水の言葉を今思い浮かべているんだろう。


嫌だ──。


< 346 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop