恋口の切りかた
「姉上が、その体格で大人の男を圧倒するのは本当に驚異ですが──、兄上の場合は剣の腕に加えて、最近では背も伸びましたからね。
体格差で大人に遅れをとることもなくなってきましたし」

そう語る平司自身も最近では身長が伸びてきていて、私は既に追い越されてしまっている。

まだ背伸びをすれば並べるくらいではあるけれど。

「うちの道場でも、もう勝てる者は少ないと思いますよ」

「そっか……」

「姉上?」

不思議そうな顔をする平司を残して、私はとぼとぼと母屋に引き返した。




それから、

辻斬りは三日と明けずに夜な夜な城下に出没し、町はその話で持ちきりになった。


手練れの者ばかりを狙うとか、
殺された者は皆、裏で悪事を働いていて──、一度殺されたほうがいいような者ばかりだとか、
やれ世直しだ義賊だ……

そんな噂が飛び交った。



そして、


辻斬り事件の起きる夜、決まって──


──円士郎の姿は部屋になかった。

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