恋口の切りかた
私は何とか彼を止めようと、必死に円士郎にしがみついた。


「お願い、ここにいて……エンのことが心配なの」


立ち上がって円士郎にすがりつき、着物の襟を握ってそう言ってしまってから──


円士郎の顔が見る見る赤くなっていくのに気づいて、私はしまったと思った。

ずっと昔、平司が私と遊ぶなと言った時にも彼は激怒している。
納得の行かない理由で自分の行動が他人によって制約されることを、円士郎は何より嫌う。
それは私も重々承知していたのに。


中間が、困ったように私と円士郎を見比べた。



冷たく振り解かれる──



そう覚悟したら、円士郎は何故か私の肩に手を回した。

「わかった、留玖。俺はここにいるから、安心しろ」

なだめるようにそう言って、
円士郎は私を抱きしめて、
私ごと再び腰を下ろして、

私を抱き寄せたまま、肩に布団を掛けてくれた。

私はびっくりした。
あれっ? と思って見上げると、

円士郎は少し困ったような──
でも優しい表情で私を見下ろしていて、全く怒ってはいないようだった。

怒ってなさそうなのに……顔が真っ赤なのは何でかな……。

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