恋口の切りかた
「妹君に喋りなすったか」
「とぼけんな。喋ったのはあんただろ」

遊水は怪訝そうに首を捻った。


あ……そっか。
二人とも、私が昨日の夜に後をつけて行ったこと知らないから──。


「それからそのイライラする喋り方もやめろつったハズだが」

「外ではともかく、屋敷内ですから礼を尽くしているつもりなのですがね」

「あんたのは慇懃無礼っつうんだよ」


私は二人のやりとりを聞きながら、そう言えば昨晩、遊水が敬語抜きで円士郎に話しかけていたのを思い出した。


かつての私に対してもそうだったけれど──円士郎が相手からのへつらいを拒絶する事というのは、結構珍しくて。

これまでの経験から私は、なんだかんだ言って円士郎がその相手をかなり気に入っている証拠だということを知っている。


実際、円士郎の遊水に対する態度は以前よりずっと親しげで、彼らの間に私の知らない交流があったことが窺えた。


「とにかく、今日はやめだ」
「そうかい」

庭先にひざまずいた遊水はがらりと変わって気安い話し方になり、
いつかのように、被り手ぬぐいの頭をぺしりと打っておどけた調子で言った。

「そいつは残念」

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