恋口の切りかた
その後で、

「しかしいいのかねェ」

と、緑色の瞳はいつになく鋭い輝きでもって円士郎を見据えた。


「今宵の相手は左内先生──銀治郎親分さんの所の、久本左内先生なんだがな」

「なに?」

円士郎の顔色が変わった。

「円士郎様にとっては因縁のあるお方と聞いてるぜ?」


久本左内という人なら、私も知っている。

銀治郎親分のところで用心棒をしている浪人(*)で、円士郎とはハッキリ言って犬猿の仲。会えば喧嘩を繰り返し、互いにいつか斬ってやると言い合っている人だった。


円士郎の瞳に迷うような色が浮かんだのを見て、私は円士郎の着物を引っ張ったけれど──

今度は円士郎は上の空で、何事か考えているように落ち着きなく視線を動かした。


「来ないとあっちゃあ仕方がないが、俺は一応伝えたぜ」

エンシロウサマ、と遊水はわざとらしく強調して、去っていった。



(*浪人:使えていた大名家が取り潰しに遭うなどして、仕官先を失って失業状態になってしまった武士)

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