恋口の切りかた
遊水がいなくなった後、
今度は虹庵がやってきて私を診た。

私はその間もずっと不安で堪らなくて、
円士郎に部屋にいてくれと頼んで、

そうしたら円士郎はやはり、すんなりと頷いてそばにいてくれたけれど──


円士郎は心がどこか別の場所にある様子で、ずっと考え込むように定まらないまなざしを空に漂わせていた。


虹庵が風邪でしょうと言って帰って行き、
再び部屋の中は円士郎と私、二人きりになった。

私は黙り込んでしまった枕元の円士郎が、先刻遊水としていた会話を思い出して──


──ふつりと、四年前の記憶の気泡が胸の中に浮かび上がった。


私の前で、私の知らない話をする彼らの様子は、
四年前のあの夜、何も知らない子供には手の届かない言葉を交わしていた父上と城代家老の姿によく似ていた。


同じだ。
あの時の置いてけぼりを食らった感覚と。

その場にいるのに、私だけ取り残されているような──。


円士郎が辻斬りをしていたのも嫌だけど、
こっそり円士郎の後をつけて、こんな形でそれを知ったことも嫌だ。


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