恋口の切りかた
「エンは、私にどうして何も言ってくれなかったの?」


そりゃ、人に言えるようなことじゃないかもしれないけど、でも……


私にとって円士郎はこの世でたった一人の、一番大事な人なのに──


「エンにとって私は、その程度の人間なの……かな……」

悲しくて、寂しくて、
消えそうな声しか出なかった。


黙っていた円士郎は私の言葉を聞いた途端、「はァ!?」と、

もの凄く信じられない言葉を聞いたというように──
或いはもの凄く心外そうに──

大声を上げた。


「……なんでそうなるんだよ」

円士郎は拗ねたように、形の良い眉を寄せた。


「言ったろ。俺にとってお前は大事な奴だ」


円士郎はそう繰り返して、


「だからこそ絶対に巻き込みたくねえ──そういうこともあるだろ」


それは、私から一切の反論を奪うような答えだった。
< 383 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop