恋口の切りかた
繰り出された剣撃をかいくぐって、遊水が拳を突き出し──しかし警戒されたようで、確実にかわされる。

侍の刀が遊水の肩口を掠め、遊水が後ろに退いた。
が、間合いをとることを許さず、侍が踏み込んで斬りつける。

避けきれず、鋼の刃は遊水の腕を法被の上から浅く薙いだ。


これは──マズいな。

私の朦朧とした頭でも明らかにそう思える力量関係だった。


最初に木刀を斬られた時に私が感じたとおり、今遊水が相手をしている侍は強い。

遊水にやられて左内の死体の隣に転がっている男とは、比べモノにならない動きだ。


むしろ素手で相対している遊水が信じられないくらいで、しかし力量の差は遊水を確実に追い込んでいる。

このままでは──間もなく倒れ伏すのは遊水に間違いなかった。


ここでようやく、私は大声を上げて人を呼ぶという方法に思い至って、

大きく息を吸って、



「うぐっ──!」

遊水が短くうめいたのはこの時だった。


見ると、
遊水の腕に、細く小さな杭のような──棒のようなものが一本刺さっている。


何あれ……?

両手で刀を構えているこの侍が、斬りつけながらあんなものを刺したとは思えない。


「これは──手裏剣とは……他にも仲間が──!?」

腕に刺さった棒を引き抜いて投げ捨てながら、遊水が周囲を素早く見回した。


手裏剣!?

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