恋口の切りかた
私は、先刻どこからともなく聞こえた謎の〈声〉と、
目の前の侍の「少しは手伝わんか!」という不自然なセリフを思い出した。

あれが、倒れて役に立たなくなった仲間に向けた言葉ではなく
どこかに潜んでいるあの時の〈声〉に対して放たれたものだったとすると──


──忍者──

という単語が脳裏に浮かんだ。


私も周囲を見回してみたけれど、しかし真夜中の橋の上には私たち以外の者の姿は見えない。


手裏剣というのは、『忍』『隠密』『忍者』などと呼ばれる者が好んで使う武器の名前だった。

今の細長い杭のような形状の武器は、棒手裏剣と呼ばれるものだろうか。



幸い遊水の傷は大したことがなさそうだが──

──と思っていたら、遊水はがくりと膝を折った。



クソッと小さく焦った声を出して、
遊水は手裏剣が刺さっていた傷口に口を当て、血を吸い出して吐き捨てる仕草をした。

「毒か……!」

痙攣のように小刻みに震える手を橋の上について、遊水が呟いた不吉な言葉に、私はぞっとした。

今の手裏剣に──毒が塗ってあった?


「勝負あったな」

侍が勝ち誇ったように言って、動けない遊水に刀を振り上げた。

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