恋口の切りかた
激しく咳き込みながら、腹を蹴り飛ばされたのだと何とか理解できた。
すぐに身を起こそうと藻掻いたが、全く体に力が入らない。


見上げると、ぼやけた視界の中で男が折れた刀を投げ捨て、倒れた仲間の刀を拾い上げていた。

そうか……と、それを見ながら思った。


熱のせいか、こうまで正常な思考が働かなくなっていたなんて。

どうして今まで思いつかなかったんだろう。


刀なら最初からもう一つ──そこの斬り殺された左内の死体が、ずっと握っていたのに……!


「お前から先に斬ってやる」

起き上がれない私を見下ろして言う侍の手で、月の光を跳ね返し刃が輝いた。


「──っ留玖殿!」


遊水の切羽詰まった叫びが耳に届き


伸ばした私の手が、左内の刀を握る。
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