恋口の切りかた
遊水の時とは違って、技でもなんでもなく、
単純に橋を駆け上がってきた勢いで蹴り飛ばしたのだろう。

円士郎に弾き飛ばされた侍は、欄干に強かに体を打ちつけてうめいた。


「エン……?」

「こンの──馬鹿野郎!」

何とか上半身を起こした私にも、円士郎は怒りの滲んだ声で怒鳴って

それからあきれたような、
苦笑しているような、

そんな調子で笑った。

「ったく、お前は具合が悪いのに──
そんな格好で屋敷抜け出して、
こんな所でなに殺されかけてやがるんだよ」

「だって……」


私は唇を噛む。


「円士郎を止めたくて──」

「止める?」


円士郎は不思議そうに聞き返した。


「何の話だ?」

「何の話って──円士郎が夜に屋敷を抜け出して辻斬りをしてるから……」



「はァッ!?」



円士郎は耳を疑ったと言わんばかりの頓狂な声を発した。



「俺が辻斬り!?
おいおいおいおい、待て待て! 何だそりゃ」
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