恋口の切りかた
「えっ──」


私はびっくりした。


「違った……の?」

「──遊水!!」


動けずに座り込んだままの金髪の若者を、円士郎は睨みつけた。


「あんた、留玖に何を吹き込みやがった!?」

「いや……俺は何も……?」


毒が効いているのか、遊水は苦しそうな様子で──
しかしこちらも寝耳に水といった表情になった。


「だって……円士郎は、遊水さんに唆されて、辻斬りをやってたんじゃ……」

「何か誤解があるようですが」


遊水は白い額に脂汗を浮かせた状態で、翠玉の瞳に私を映した。


「さすがに俺も、武家のご当主となられる身分の御人に、辻斬りを勧めたりはしませんぜ」

「え? でも相手を用意するって……」

「ああ──」

くっくっく……と、
苦痛に顔を歪ませながらも遊水は低く笑い声を上げた。

「ですからそれは──」

そう言って彼は、
欄干に手をついてよろめきながらも身を起こそうとしている侍を顎で示した。


「俺が遊水に言われて斬ろうとしてたのは、『辻斬り』だ」

立ち上がる侍を見ながら、円士郎がずらりっと腰から刀を抜いた。


「つまり──こいつらだよ」
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