恋口の切りかた
一年──!?
予想外の凶行の長さに私は驚いた。

「役人が躍起になって捕まえようとしているのに顔も姿も、正体がまるで掴めず人相書きすら出せない。
これじゃあまるで幽霊だ。

辻斬りに行き遭った達人が皆、あっさりやられちまうってのも不可解だときてる。

そこで、だ。

どうです面白そうでしょうこの相手を斬ってはみませんか、と円士郎様にオススメした、ってワケです」

「────」

私は絶句した。
円士郎が辻斬りをしていたのではないとわかってホッとしたけれど、黙ってこんな危ない真似をしていたなんて……。

うう、エンのばか。


「まあ、そんな謎も今宵ようやく解けましたがね」

遊水は自分が手裏剣にやられた傷口を見下ろして、自嘲気味に笑った。


「忍の者が手伝っていたとは──見張りを立てた上での慎重な行動か。
成る程、捕まらないワケだぜ」


遊水の言葉で、私は再び背に緊張が走るのを感じながら周囲の気配を探ろうとしたけれど、

朦朧とした頭では、橋の周囲の闇にはどこに何者が潜んでいるのか──相変わらず杳として知れなかった。

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