恋口の切りかた
「千人斬り──だと?」

円士郎が、侍の放った言葉を繰り返した。


千人斬りって──

私にはそれは、酷く非現実的な
そして狂気じみた響きにしか聞こえなかった。


「てめえ、何か重病(*)でも抱えてんのか?」

そうは見えねえけど、と円士郎は
頭のてっぺんからつま先まで侍を眺めて、訝るように言った。

「私ではない」

「……どういうことだ?」

円士郎のその問いに、侍は答えなかった。

答えずに、刀を振りかぶって──


無言で、円士郎に斬りかかる。




「む──!?」

繰り出された斬撃から身を捻って刃をかわし、侍から距離を取って素早く辺りに鋭い視線を送った円士郎を見て、侍はやや驚いた表情を浮かべた。



(*重病:当時は千人斬りを達成すると難病が治ると言われ、願掛けは主な目的)
< 416 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop