恋口の切りかた
忍はそれから、倒れているもう一人の男を眺めて、

「浅井らのほうは、都築様が言ったとおり──
途中から都築様に手を貸した見ず知らずの浪人だがな」

と言った。


「あんたは──千人斬りなんて真似に手を出した主人を、いさめようって気はなかったのかよ?」

怒りを孕んだ円士郎のこの問いに、忍は、

「それは臣下の務め。忍の務めではない」

と、即答した。


「俺の考えなどで都築様のお耳を汚す必要はない。

しかし貴様らに敢えて語るならば──」


忍は、頭上の傾いた十六夜の月を仰いだ。


「千人斬りを決意されてより後、都築様は良く仰っていた──

この世は狂っている。
全て狂っている。
だから自分は母の病と共に、この病んだ世の中を治すのだ──

──とな。

我々が悪い噂のある者ばかりを狙ったのは、後腐れがなく、悲しむ者もいないようにだが……

都築様は案外、心の底では世直しのつもりだったのかもしれん。
今となってはわからないが」



ただ、俺は──



忍は視線を私たちに戻した。



「己以外全てが狂っていると感じたのなら、

もはや狂っているのは世間ではなく、

本人のほうだと──

そう思う」
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