恋口の切りかた
ああ、この人は……


主人には最期まで自分の考えを語らなかった忍の姿に、

私は思った。



自分にとって大切な人が、本当は間違っていると感じながらも、

私とは違って、彼を止めようとはせず、

黙って主人のために
従って、
尽くしてきたんだなぁ……。



たぶん、それは並大抵の覚悟でできることではなくて、

やはり凄い生き方なんだろうと思うけれど──



「都築様の母親は、このことを……?」

黙っていた遊水が訊いた。

「まさか」

忍は首を振った。

「このようなこと、知らせるわけがない」

「今は、どうしてる?」

「都築様が目をかけていた者がお世話している。

千人斬りは叶わなかったが──きっとこのほうが母君も安心されるだろう」


そうかい、と言って再び遊水は黙った。


「俺は……やっぱり理解できねえよ」

円士郎が、自分が斬った都築を睨んで口を開いた。


「もしも──俺が都築の立場だったら」


円士郎は私を見た。


「俺は、自分にとって大事な奴を置いて行ったりしねえ。

本当に大事な奴なら、ずっとそいつのそばにいる」


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