恋口の切りかた
「だから、それが──」


忍は、

片手に私を抱いて
もう一方の手で刀を構えた
円士郎と、

片手に刀を握り締めて、
何も持たないもう一方の手を投げ出したまま
絶命している都築とを

見比べた。


「──それが我々と貴様の、決定的な違いなのだろうな、結城円士郎様」


そう言って、

「とりあえず、回収すべきものは回収した。
俺はそろそろ消えるぞ」

忍は手に握った棒手裏剣を見せた。

遊水が腕から引き抜いて投げ捨てていたものだ。


いつの間に──!?


私は改めてぞわっと、全身が粟立つのを感じた。


「あんたはこれからどうする気だ?」

円士郎が訊いて、

「新たな主人を見つけて仕えるだけだ。

都築様は……これが終わったらお前は畑でも耕して静かに暮らせと、そう仰っていたがな」

忍は事も無げに言い、

くるりと、音も立てずに欄干の上で背を向けた。


「貴様らとは近いうちにまた会うことになりそうだな」


そんな不吉な言葉を残して
名前も顔も知らない男は闇の中に姿を消した。


動作も何もわからず、

飛び上がったということはないだろうから飛び下りたのか──

橋の下からも水音一つしなかった。
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