恋口の切りかた
それで彼は刀だけ持って、

服を着替える暇も惜しんで屋敷を飛び出して、

この場に駆けつけるまで、町中探してくれてたなんて──


そんなことも知らずに私は……。


「ごめん……ごめんなさい、私……」


ここにいるから安心しろ。


円士郎はそう言ってたのに。
その言葉を、ちゃんと守ってくれてたのに。


「いーよ、留玖。
俺のほうこそ、すまん。
色々勘違いさせて、お前に不安な思いさせちまったな……」

円士郎は優しい目で私を見下ろして、頭をなでてくれた。


「巻き込みたくなかったんだよ。

お前、弟殺されてるだろ?
盗賊と辻斬りじゃ違うかもしれねーけど、思い出すだろ、こういうのは。
嫌な思いさせちまうと思ったから。

さっきだって震えてた……
辛かっただろ? 大丈夫か」


円士郎は、私の心の中を把握していた。

ちゃんと把握して、気づかってくれていた。



私は驚いて──



──嬉しかった。



「大丈夫だよ、エン」

私は微笑んだ。


私が嫌だったのはたぶん、
円士郎が、私の弟を殺した者たちと同じ行為に手を染めていることだったのだと思う。


だから──


「私はもう、大丈夫」
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