恋口の切りかた
「わああああ!?」


私は悲鳴を上げて円士郎にしがみついた。


女の片手には、滅多刺しにされて血に染まった鶏の死骸が……


やだよう、なんなの!?
ここ、お化け屋敷?

私は小さい頃村の婆さまから聞いた、山姥の話を思い出した。



包丁を握った女は、「ん?」と首を傾げて、

「そいつらは何だ?」

円士郎の後ろに隠れた私と、
円士郎が担ぎ上げている遊水とに
気がついた様子で言った。

「よく見れば貴様ら全員血だらけではないか! 何事だ?」

私たちのなりを見て、女の人は目を丸くした。


深夜に血に濡れた包丁と鶏の死骸を握ってる女の人のほうが、
よっぽど何事だって感じだけど。


「ちょっとな。
俺は虹庵も呼んで来るから、その間あんたにこいつを診て欲しいんだが……取り込み中だったか?」

円士郎は、遊水を板の間に下ろしながら、
包丁と鶏を握った女の人に言った。

「ああ──これは、絵にするために鶏を捌いていたところだったのだよ。
まあ、さほど急ぎでもない」

女の人はそんなことを言った。


──絵?

絵にするために……なんで鶏を捌くのだろう。


「そうか、良かった。
こいつ、毒にやられてんだ」

円士郎の言葉を聞いて、女の人は顔をしかめた。


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