恋口の切りかた
「毒だと? 何の毒だ?」

「それがわかんねえから、あんたに突き止めてほしいんだ!」


そう言って円士郎は踵を返して──

「待ってよ、エン、この人は……」

私は慌てて、円士郎の着物の袖を引っ張った。

「ああ、こいつは本草学者で『生き物絵師』の、佐野鳥英って奴だ」

「サノチョーエイさん?」

生き物絵師……?

言われて私は部屋の中を見渡した。


確かに土間を上がった板の間には、
筆やら硯やら……
至るところに絵の道具らしきものが散乱していた。

でも──

絵師って、夜中に包丁片手にニワトリさんを切り刻んでたりするもんなの?


「学者ではなく、本草学は囓って育っただけだと言っただろう」

女の人は円士郎の言葉をそんな風に訂正した。


「留玖、先生呼んですぐ戻るから、お前はここで遊水についててやってくれ」

「えっ? ……え?」

私の返事も待たずに円士郎は飛び出して行ってしまった。


そんなぁ──、こんな得体の知れない所においてかないでよう……。


私は恨めしい気持ちで円士郎が出て行った戸口を見つめて、

おっかなびっくり、女の人を振り返った。
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