恋口の切りかた
「えっ……?」


留玖と遊水がぎょっとした様子で目を見張った。


「……さすがです。よく俺だとわかりましたね」


年の頃は二十代後半から三十代頭というところか。

その中間──あの橋の上から消えた忍の男は、
ニコリともしない能面のような無表情で
そんな讃辞の言葉を寄越してきた。


「答えろ。何のつもりだ?」

俺は肩口を踏みつける足に力を込め、じりじりと男の喉元に動かしながら言った。

「返答次第では、この場でその喉踏みつぶす」

声音と
視線とに

じわりと潜ませた冷徹な殺意を感じ取ったのか、

相変わらず表情は無いままで、忍の額から汗が一筋流れた。


「勘違いしないでもらいたい。あの時も言ったとおり、俺には今さらあなたたちの命を狙うつもりはない」

「だったら何故ここにいる」

「別れ際に言ったハズだが?」


訝る俺の目を、忍は──

静かに、
真っ直ぐ

見据えた。


「あなたたちとはまた会うことになりそうだと、
そして、
俺はまた新たな主人を見つけて仕えると」


──ん?


「ちょっと待て……それは……つまり──」

「結城家に仕えに来た」

と、男は言った。
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