恋口の切りかた
「全く、毎度毎度、自分たちは適当に降参して、ボクたちの三勝頼みなんだからな」

鎧武者があきれたように嘆息した。

「ハッ、本田殿が腕を失ったのは天罰としか言いようがないね」

「黙れ! この作戦を考えたのは俺たちだ。

どの道場でも本当に強い者を出してくるのは大抵、三人目、四人目からだ。

そこでこちらは確実に勝てる強者二人で最初に二勝し、
強い者には俺と本田殿がさっさと勝ちを譲る。

これこそ兵法というものだ!」

鎧武者に偉そうに力説する髭面男の言葉を聞いて、


そういうことかと、私は理解できた。


つまり私と冬馬の試合は向こうにしてみれば完全に捨て勝負。

重要だったのはその前の二人の試合のほうで──


そうやって二勝二敗に持ち込み、最後の一人で三勝目をとる。


私たちは、その作戦にまんまとハマってしまったということだったのだ。



もっとも、

本来ならば、冬馬の試合も軽く刃を合わせて
負けを宣言した時点で終わる予定だったのだろう、

冬馬が制止を無視して斬りつけたのは、
彼らにとっても文字通り痛い誤算だったに違いない。



しかし、この作戦は──



鍵を握る最後の一人、

勝敗を分ける五人目が
真の実力者でなければ成り立たない。



「さてと。ようやくボクの番だな」

鎧武者はバサリとマントを揺らして、不敵に笑った。

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