恋口の切りかた
「なんと……!」

「初めて見た」

年輩の門弟たちの間からも、驚嘆しているような声が次々に挙がった。


「『心の一方』って──何ですか、それ?」

私は虹庵に尋ねた。



「別名を『すくみの術』。
二階堂平法の秘伝だ。

この達人だった二階堂流の松山主水(もんど*)は、
出会った相手をことごとく瞬間的に金縛りに合わせて、動かなくさせることができたという」



そんなことが──


「私も実際に見るのは初めてだ」

虹庵は堅い表情で円士郎を見つめたまま言った。



どうしよう、動けないなんて……このままじゃ円士郎が──


ふっくくく、と鬼之介が低く哄笑して、
整った顔を残虐で凶暴な表情に彩った。

「さあて、さっきの礼をたっぷりしてやる」


「いいぞ! さっさとトドメを刺せ」
「終わりにしろ!」

道場破りの面々が言って、


「くそ……!」

円士郎が焦ったようにうめいた。



(*松山主水:江戸時代初期の実在の武芸者。二階堂平法「心の一方」の使い手)
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