恋口の切りかた

 【円】

何がどうなったというわけでもない。

締めつけられているとか、圧迫感があるとか、
おおよそその言葉から想像するようなことは何一つ──

俺の身には起きていなかった。


にも関わらず、俺は動けない。



金縛り。



端で見ている者にとっては、動けないこの状態はそう見える、ということなのだろうか。


「てめえ──」

俺は目の前のふざけた格好の男を睨む。

「何をしやがった──!?」

声は出る。
喋ることも、こうして相手を睨みつけることもできる──のに、体が……


動かない。
動かせない。


俺の体は、凍りついたように──いや、

石になったように、という感覚が一番近いかも知れない。


まるで動き方を忘れてしまったかの如く
そもそも「動く」という概念を忘れてしまったかの如く、

ぴくりとも動かなくなってしまった。
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