恋口の切りかた
この男と目を合わせて、刀を構えて睨み合っていた。

その状態で──

留玖たちが、この宮川鬼之介新三郎三太九郎太郎五郎衛門之進なる男の素性について語っている、その話に一瞬意識を持っていった。



そして、



再び目の前の男に意識を戻そうとした時に──何か妙な感覚があって──



あとはこのザマだ。

俺の体は指一本動かなくなった。



この雪の中、クソ寒いってのに──



二階堂平法──「心の一方」というものが存在するのは知っていた。

だが、その効力については俺は全く信じていなくて、
人間の動きを止める「術」など、眉唾に違いないと考えていた。


だから、「心の一方にかかったならば動けない」という思い込みで動けなくなったということは有り得ないし、

まして、目の前の鬼之介というこの男の眼力に射すくめられた、なんてことはもっと有り得ない。


有り得ないはずだ──。


「不可解そうだな、結城円士郎。
逃れる方法でも考えているのか?」

ふふん、と男は憎たらしい笑い顔を向けた。

「無駄だ。
心の一方は、気合いとか根性とか、『精神力』などというもので破れる類のものではないし、
自分は絶対にかからないと思っている者もかかる。

そして、そうやって頭を働かせて──頭の表面でいくら考えてもどうにもならんのだよ」


鬼之介は勝ち誇ったように言うと、何を思ったか構えていた刀を鞘に納めた。

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