恋口の切りかた
なんだこりゃァ!?


殴られた痛みよりも何よりも驚きが俺を支配する。


「まずはさっき顔を蹴ってくれた礼だ」

そう言う鬼之介を見ると、手はちゃんとついている。

鬼之助の手が外れたワケではなくて、
飛んできたのは鎧の籠手の先の部分だった。

鋼鉄製の手の形になっていて、どうやら鬼之助はずっと手にこれをはめていたらしい。

外れた鉄の手からは細い鎖が伸びていて、鬼之助の鎧と繋がっている。


「振り杖」という杖の中に仕込んだ鎖分銅を飛ばす武器があるが、ちょうどそんな感じだった。


もっとも、振り杖が名称通り杖を振った時の力で分銅を飛ばすのに対し、

そういった動作なしでいきなり俺の顔面に手が飛んできたのを見ると、何か鉄の手を撃ち出す仕掛けのようなものがあるようだが──


「驚いたか! これもボクの発明だ」


鬼之助は得意げな顔で、鎧の肩のあたり──栴檀板の上のほうにぶら下がった紐を引っ張った。


「うおお?」

俺は目を見張った。


きりきり、という音がして、

一気に巻き上げられるように、
鎖が瞬時にして短く縮まり、

鋼鉄の手は再び鬼之介の元に戻る。


振り杖の場合、分銅は撃ち出せば一々手繰り寄せるしかないのだが、
手元に戻る仕掛け付きかよ。


ううむ、こんなものを自分で発明するとは、


ハッキリ言って、これは



──凄ェ。
< 566 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop