恋口の切りかた
「気になっていたのだが……そこの紅毛の男は……」

庭に立っている遊水を見て、鬼之介は眉を寄せた。


「遊水か? こいつは紅毛の血を引いてるだけで、紅毛人じゃねェよ」

と俺が言うと、


「遊水? って、まさかそいつ──」

鬼之助は息を呑んだ。


……なんだ?


訝る俺の目の前で、

「いやいや、こいつァお久しぶりです、宮川鬼之介新三郎三太九郎太郎五郎衛門之進様」

と、遊水は鬼之介に向かって白い顔に微笑を作った。

「すっかり忘れられちまってるかと思ったら、気づいて戴けたようで、何より」


「ん? 知り合いか?」

俺の問いに、遊水は「ええ」と頷いた。

「このお人とは、ちょいと昔のなじみでね」


──ほう?


鬼之助は、金魚のようにパクパクと口を動かして、冷や汗まで滲ませて喘いだ。

「な、なんで、あんたが、こんなところに、いるのだ……?」

「こりゃァ随分な言い草ですね」

「ゆ、結城円士郎……」

鬼之助は震える手で遊水を指さして、俺を振り仰いだ。

「き、貴様は、わかっているのか……こいつは──」

「おっとそこまでだ!」

何事かを言いかけた鬼之介を遮って、遊水が鋭く声を上げた。


「余計なことは喋るな」


遊水は、とっぷり暮れた夕闇の中から、
背筋が粟立つような声音で言った。

その顔に浮かんだままの笑みには、ぞっとするような凄みが潜んでいる。


「あんたもまだ消されたくはないだろう? 宮川鬼之介新三郎三太九郎太郎五郎衛門之進サマ」


サァ──ッと、
一気に血の気が引いて、鬼之介が顔面蒼白になった。

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