恋口の切りかた
何だ? と首を傾げる俺と留玖の前で、

あうあう、と鬼之助が言葉にならない喘ぎを漏らし、宗助が表情を険しくした。


消される、とはまた物騒なセリフだが。


「俺のこのお侍様への話は、これだけだ」と遊水は言って、用も済んだとばかりに立ち去って行った。


話って、こいつに釘を刺しただけじゃねえかよ。




遊水がいなくなると、興味津々の俺は鬼之介に向き直った。

銀治郎の話でも、この城下に流れてくる前までの遊水の過去は謎に包まれている。


鬼之介が、各地の道場を渡り歩いていたという話を思い出し──


「おい、てめえひょっとして、遊水の過去を何か知ってやがるんじゃねえのか?」

「えっ? そうなの?」

俺が当てずっぽうで言い、留玖が身を乗り出すと、

鬼之助は大怪我にも関わらず、頭がとれるんじゃないかというほどに、
ブンブンと勢いよく首を横に振った。


「知らん! 知らんぞ! ボクには何も訊くな!」


随分なびびりようだった。


くそ、遊水に先手を打たれたな。

この様子では、こいつから何かを聞き出すのは不可能そうだ。


ううむ、前科者の罪人とかか?

にしては一応、遊水の手に刺青(*)のようなものは見当たらないが……。



(*刺青:昔は捕まえた犯罪者の腕にイレズミを入れた)
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