恋口の切りかた
「宗助、お前──虹庵が留玖に火箸で打ちかかった時、
どうして留玖じゃなく俺を庇った?」

俺は傍らに控えたままの宗助に気になっていたことを訊いた。


留玖と鬼之助がこちらを見る。


心の一方を仮に解いた時、こいつは俺のことを主君と呼んだが……

「お前が仕えるのは俺じゃなくて、結城家──つまり今は親父だろ。
俺も留玖も結城家の子供に違いはねえハズだ。
俺が親父の嫡男だからか?」

「いえ」

俺の問いに、宗助は頭を横に振った。

「俺が『中間として』仕えるのは確かに結城家ですが──」


宗助は怜悧な瞳で俺の目を真っ直ぐに捉えた。


「俺が『忍として』仕える主君は結城円士郎様、あなた個人。
あなたが都築様との違いを示された夜、俺はそう決めました」


俺は沈黙する。


「故に──今後も、
例え目の前でおつるぎ様の身に危険が迫ることがあろうとも、
俺は主君であるあなたを優先して守ります」


宗助は淡々と語って、黙っている俺の表情を窺った。


「お怒りですか?」

「──いや」


俺は苦笑する。


鬼之介と家来にするという約束を取り交わしたことで──

そして今、宗助に主君と明言されたことで、

俺の中には、これまで曖昧なままにし続けてきたものに対する覚悟のようなものが固まりつつあった。


「よくわかった。俺もそのつもりで行動するぜ」

< 608 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop