恋口の切りかた
円士郎にごおぐるを割られた時のアザがいつまで経っても消えないので、
私が心配して虹庵に訊いたら、

アザだと思った鬼之助の真っ黒な目の周りは、隈(クマ)だった……。

鬼之助は血色も悪くて、顔色もなんだか青白いし──



そんなに寝不足なのかな?



鬼之助の話だと、発明を思いついたら
三日、四日は長屋に籠もって
寝ずにぶっ通しで作業したりするのだそうだ。


なんだかんだで、円士郎と鬼之助は意気投合していて、

鬼之介が結城家にいる間にも、円士郎は下駄を改造してもらったりしていた。


もともと円士郎は、喧嘩の時に役立つからとか何とか言って、
台の裏と歯の部分が鉄製の、鉄下駄を履いてウロウロしていた。

その下駄で顔面を蹴られた鬼之介はかなり痛かったと思うけれど……

その時に思いついたらしい。

鬼之助は下駄の台から刃物が飛び出す仕掛けを取り付けて、円士郎は大喜びしていた。


危険すぎる下駄な気がするけど……。

彼ってこういうの、好きだからなあ。




円士郎が、あの覆面の城代家老──伊羽青文の屋敷に行くと言い出したのは、

鬼之介が何とか杖を突いて歩けるようになり、
町の長屋に引き上げていった、如月のある日のことだった。

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