恋口の切りかた
思慕──?

私はその言葉にちょっと変な気がして、


「伊羽は、他人の胸中を推し量るのに長けた男だ。
すぐに弟の心を見抜き──信がおける部下として重宝すると思ったんだろう。
自分の小姓にした」

「小姓って……」


鬼之介の話を聞いた円士郎がもの凄く嫌そうな顔になった。

──なんだろ?


小姓っていうと──結城家の屋敷にもいる中小姓のことだけど……

主人の身の回りの雑用をする人だ。


それがどうしたのだろう。


「それっきりボクは会っていない。
指を切るか爪をはがすかしてなけりゃいいんだがな」


指を切る? 爪をはがす!?


うちの中小姓さんって、そんな痛そうなことしてたっけ?

なんでこんな話が出てくるのか、私にはさっぱりわからなかった。


「中が誰と契りを交わそうが、知ったことではないが──

あの部下を道具のようにしか考えてなさそうな家老に中が利用されて、宮川家にまで累が及ぶことにでもなれば堪ったもんじゃない」


忌々しそうに言った鬼之介の言葉に、私は首を傾げた。


「契りを交わす──ってなんのこと?」

「何ってそりゃ、若道の……」


鬼之介が言いかけて、ハッとしたように口をつぐんだ。


私はキョトン、とする。


「ジャクドウってなに?」


円士郎と鬼之介が顔を見合わせた。
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