恋口の切りかた
二人は何やら私に背を向けてヒソヒソと、

「まさか、衆道を知らんのか?」

「町人の間にも陰間遊びはあるけどよ、留玖は農民出身だからなァ……」


シュドウ? カゲマアソビ?


聞こえてきた単語は私の知らないもので、

不思議に思っていると円士郎が嫌そうな顔で振り返ってきた。


「留玖、お前うちのクソジジイの話は聞いてねえか?」

「ご隠居様の話? 江戸にいるっていう?」


首を捻りながら言った私の様子を見て、円士郎はハアア、と重たい溜息を吐いた。


「鬼之介、お前説明してやってくれ」

「ボクかよッ!?」



それから聞かされた説明は、私にとっては衝撃的なものだった。



「衆道とか若道というのは、武士道の一つでだな……
ええと、若い武士との間の忠義の道で──
つまり、その、忠義の誓いを立てるのに互いの身も心も捧げるってことだ」

「え!?」

身も、心も捧げる!?

「回りくどい説明してんなよ。要は少年相手の男色だ、男色」

「だ──」


──男色!?


円士郎が放った一言で、私はとんでもない質問をしてしまったと気がついた。


「ぶ、武士道って、そんなのがあるの?」

「あるんだな、コレが」


円士郎は苦虫を噛み潰したような顔で頷いた。


「何だ? 円士郎様は衆道が嫌いなのか?」

鬼之介が意外そうに言った。
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