恋口の切りかた
「ったりめーだ! 俺はアサリとシジミとハマグリと衆道が大ッ嫌いだ」


円士郎がアサリやハマグリが嫌いなのは、ジャリジャリするからだって知ってるけど──


円士郎はいつにも増して険悪な形相を作った。

「あんなモン武士道じゃねえ!」

おいおい、結城家の御曹司のセリフとも思えんな、と鬼之介は目を丸くして、いつものことだがと苦笑した。

「何か嫌な思い出でもあるのか?」

「うちは、親父や俺は女好きだが、クソジジイがよ……」

「なるほど、衆道を好む人なのか」


ええっ……

私は初めて知った。


隠居してからはずっと江戸で暮らしているということしか、私は聞かされていなかったけれど……



……そうなんだ。



「ガキの頃に、じじいにベタベタ体を触られてみろ。気色悪い!」

「それで衆道嫌いにか」

鬼之介は自分の顎をなでながら、円士郎をしげしげと眺めて、

「まあ、確かにその顔だ。
貴様のガキの頃というのは──さぞかし美少年だっただろうな」


いや、髪はボサボサ顔は真っ黒の獣みたいな子供だったけど……。

私は心の中で呟く。


「てめえ……」

円士郎が鬼之介から一歩下がった。

「変な気起こすなよ? 叩っ斬るぞ」

鬼之介は胸を張った。

「安心しろ! ボクはおつるぎ殿にしか興味がないからなッ」

「え……!」

私も鬼之介から一歩下がった。

「てめえ、本気でぶち殺すぞ!」と、円士郎が怒鳴った。

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