恋口の切りかた
指を切ったり爪をはがしたりするのは、相手への心の証なのだそうだ。
小姓というのは、主君のそういう相手をする少年のことも示すらしい。

「それって、男の人が女の人を好きになったり、女の人が男の人を好きになったりするのと同じようなものなの?」

鬼之介の長屋を後にして、屋敷への帰り道を歩きながら、私は円士郎に訊いた。

「俺に訊くな! 俺は男に懸想(けそう)したことなんざねえし、知るかよ」

円士郎は不機嫌そうに吐き捨てた。


小さい頃の嫌な思い出のせいで不快感を露わにしている円士郎と違って、

鬼之介のほうは自分の弟のことなのに結構平然としていた。
相手が気に入らない、という感じではあったけれど……。

やっぱり武士の世界では普通のことなのかな?


うーん、よくわかんない……。



でも、源次郎──中は……

慕っている人がいて、その人から自分の所に来るように言ってもらえた、ということになるのだろうか。


それは……



今の私には、とても羨ましいことのように思えた。



少し先を行く円士郎の背中を見つめながら、そんなことを考えていたら、

頬に冷たいものが触れた。



……雪だ。



如月だというのに、今日は朝から冷えると思ったら──

冷たい手を擦り合わせて、私は息を吹きかけた。
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