恋口の切りかた
そう言えば、幼い頃はよく円士郎に手を引っ張られて遊びに行ったなあ……。

いつからか──

いや、それはハッキリしている。
私が女だと、円士郎が知ったあの日から、

私たちはこうして手を繋ぐこともなくなった。


何年ぶり、かな……。


私の手を引いて歩いていく円士郎の横顔を見上げて──

不意に、胸が苦しくなった。



隣にいるだけで感謝しなくてはいけない。

でも、いつまで私は彼とこうしていられるのだろう。


円士郎と風佳の婚儀が済んでしまったら、私は──



いやだよ……



本当に唐突に──胸を締めつけられるような思いが、こみ上げた。



離れたくないよ……



口をついて出そうになる本音を必死に押し殺して、

私はぎゅっと、円士郎の手を握り返した。
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