恋口の切りかた
家老の職務はだいたい七ツ時までだ。

鬼之介のところから留玖と二人で戻ってくると、
頃合いの時分となっていた。


「お前は、何故俺に仕える?」


結局、鬼之介の忠告どおりに宗助を共に選び、
伊羽邸へと連れ立って歩きながら

俺は気になっていた点を問い正した。


「お前にとって俺は、都築を斬り殺した張本人──いわば主君の仇だろう。
仇討ちをするために結城家に潜り込んだ、って言うなら納得だがよ」


虹庵や鬼之介はここらへんの事情を知らないので、
やたらとこいつを買っているようだが……


もっとも、俺もこいつの腕は買っているし、

鬼之介の心の一方を解いてみせたことと言い、忍ってのはなんて便利なんだと思わなくもなかったが──


だが、俺だってそこまで馬鹿じゃあない。

宗助のことに関しては、手放しで信用しているワケではなかった。


こいつにその気があれば、俺も留玖もとうに殺されているだろうとは思ったものの、

何も命を狙うだけが復讐ではない。


それこそ家老の伊羽が、五年前に自分を狙った雨宮に対してしたように

相手をハメて陥れ、家名を地に落とすという方法だってあるのだ。


「仇討ちは武士のすることです」

宗助は俺の問いに、そんな素っ気ない返答を寄越してきた。
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