恋口の切りかた
「いやいや、そうは言ってもよ……」

「──ならば、こう言えば納得してもらえるか?」



宗助は敬語ではなく、いつかの夜のような喋り方で──

おそらくは、結城家に仕える身としてではなく都築に仕えた忍として──


──俺の問いに答えた。



「円士郎様は確かに都築様の仇でもあるが、

武士ではない俺には結局できなかった──都築様への忠義の道の一つの示し方を
初対面で代行した、恩人でもあると」


忠義の道の一つの示し方。

彼がそう表現した行為。それは──



「何も考えず、道具の如くに己を捨て、
主のためにただ忠実に奔走するのが俺の決めた忍の生き方。

だが武士ならば、主君が道を誤った時、
主君を殺して己も死ぬのもまた、忠義の道なんじゃないのか?」



己以外全てが狂っていると感じたのなら、もはや狂っているのは世間ではなく、本人のほうだと、そう思う──か。


以前、そう口にした宗助を思い出す。


宗助は、都築が「道を誤った」とずっと考えていたんだったな。



つまりこいつには──

忍としての生き方をまっとうしたとは言え、
物事の道理を正しく見極める頭がちゃんとある、ってことだ。



「だったら──」

俺は宗助に言った。

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