恋口の切りかた
二、円士郎と風佳の婚儀
【剣】
円士郎が宗助と伊羽邸に行ってしまったあと、
私は庭を望む濡れ縁に腰掛けて、彼の温もりが残る手をぼんやりと見つめていた。
円士郎には昔、私しか友達がいなかった。
でも今は、遊水や鬼之介や、あの鳥英って絵師の女の人や、
友達とは少し違うかもしれないけど宗助──
それにきっと私の知らない町の人も──
円士郎の周りには自然と人が集まっている。
ちょっと変な人が多い気がするけど……。
そして今日、円士郎はあの不気味な城代家老を訪ねて行った。
私たちが昔巻き込まれ、見上げるだけだった大人の世界に立つために、
また新たな人間関係の中に入っていこうとしている。
私には円士郎しかいないのに。
昔と、完全に立場が逆転してしまったような気がした。
もちろん、私にだって風佳という友達がいるし、遊水や鬼之介、鳥英もいるけれど……
それはみんな、円士郎を通じた人間関係だ。
父上や母上、冬馬、雪丸、りつ様……今の家族も、全て──
私にはやっぱり、円士郎しか……いない。
それなのに──
何だか円士郎が、遠くに行ってしまうような気がして
私だけが一人、取り残されてしまうような気がして
私は寂しいような、悲しいような気分になる。
円士郎の人間関係が広がることは、喜ばなくちゃいけないことなのに。
円士郎のおかげで今、私はこんな生活ができているのに──
何、こんな子供みたいなわがままで自分勝手なことを考えてるんだろう。
嫌な子だな、私……。
ぎゅっと、
手を握りしめて、唇を噛んだ。