恋口の切りかた
そんなことを思って、
夕闇に沈んでいく外の景色を眺めていたら、
「親父ィイイイイイ!!」
大騒ぎしながら、どかどかと足音を立てて円士郎が帰って来た。
「親父ィイイ! どこだ!?」
「何だ、騒々しい」
「オヤっ……てめっ……五年前の時点でどこまで知って──」
「何の話だ?」
そんなやりとりが聞こえてきて、私も何事だろうと様子を見に行くと、
「伊羽青文について、親父はどこまで知ってたんだ!」
座敷の父上の前に仁王立ちになって、円士郎が憤怒の形相で何やらわめいていた。
「どこまで? ──ってそりゃ全部だ全部」
「全部ゥ──!?」
事も無げに答えた父上に、円士郎がまた激昂した。
「全部って……ふざけんな!!
それじゃ、初めッから親父はみんな知ってたってのかよ! 馬鹿にしやがって!」
何の話だろう?
「円士郎、お前なァ──伊羽邸に行ったそうだな」
顔を赤く染めている円士郎を、父上はあきれたように眺めて、ハアア、と大きく溜息をついた。
「その様子だと、全部知って来たというところか。
全く、伊羽殿はせっかく気を遣ってくれていたのに、お前自身が堂々と先方を訪問しては元も子もなかろう」
父上は苦笑して、いつものように無精髭をごりごりと擦った。
それから、
開け放たれたままの襖の外から、私がポカンと二人を眺めているのに気がついてこちらを見た。
円士郎もつられてこちらを振り返って──
私に気づき、何か父上に言おうとしていた言葉を呑み込んだように、パクパクと口だけ動かした。
「?」
私は首を傾げて、
こんな出来事があってから数日後に──
ついに、恐れていた現実が、私の前に突きつけられた。
夕闇に沈んでいく外の景色を眺めていたら、
「親父ィイイイイイ!!」
大騒ぎしながら、どかどかと足音を立てて円士郎が帰って来た。
「親父ィイイ! どこだ!?」
「何だ、騒々しい」
「オヤっ……てめっ……五年前の時点でどこまで知って──」
「何の話だ?」
そんなやりとりが聞こえてきて、私も何事だろうと様子を見に行くと、
「伊羽青文について、親父はどこまで知ってたんだ!」
座敷の父上の前に仁王立ちになって、円士郎が憤怒の形相で何やらわめいていた。
「どこまで? ──ってそりゃ全部だ全部」
「全部ゥ──!?」
事も無げに答えた父上に、円士郎がまた激昂した。
「全部って……ふざけんな!!
それじゃ、初めッから親父はみんな知ってたってのかよ! 馬鹿にしやがって!」
何の話だろう?
「円士郎、お前なァ──伊羽邸に行ったそうだな」
顔を赤く染めている円士郎を、父上はあきれたように眺めて、ハアア、と大きく溜息をついた。
「その様子だと、全部知って来たというところか。
全く、伊羽殿はせっかく気を遣ってくれていたのに、お前自身が堂々と先方を訪問しては元も子もなかろう」
父上は苦笑して、いつものように無精髭をごりごりと擦った。
それから、
開け放たれたままの襖の外から、私がポカンと二人を眺めているのに気がついてこちらを見た。
円士郎もつられてこちらを振り返って──
私に気づき、何か父上に言おうとしていた言葉を呑み込んだように、パクパクと口だけ動かした。
「?」
私は首を傾げて、
こんな出来事があってから数日後に──
ついに、恐れていた現実が、私の前に突きつけられた。