恋口の切りかた
そんなことを思って、

夕闇に沈んでいく外の景色を眺めていたら、


「親父ィイイイイイ!!」


大騒ぎしながら、どかどかと足音を立てて円士郎が帰って来た。


「親父ィイイ! どこだ!?」

「何だ、騒々しい」

「オヤっ……てめっ……五年前の時点でどこまで知って──」

「何の話だ?」


そんなやりとりが聞こえてきて、私も何事だろうと様子を見に行くと、


「伊羽青文について、親父はどこまで知ってたんだ!」


座敷の父上の前に仁王立ちになって、円士郎が憤怒の形相で何やらわめいていた。


「どこまで? ──ってそりゃ全部だ全部」

「全部ゥ──!?」


事も無げに答えた父上に、円士郎がまた激昂した。


「全部って……ふざけんな!!
それじゃ、初めッから親父はみんな知ってたってのかよ! 馬鹿にしやがって!」


何の話だろう?


「円士郎、お前なァ──伊羽邸に行ったそうだな」


顔を赤く染めている円士郎を、父上はあきれたように眺めて、ハアア、と大きく溜息をついた。


「その様子だと、全部知って来たというところか。

全く、伊羽殿はせっかく気を遣ってくれていたのに、お前自身が堂々と先方を訪問しては元も子もなかろう」

父上は苦笑して、いつものように無精髭をごりごりと擦った。

それから、

開け放たれたままの襖の外から、私がポカンと二人を眺めているのに気がついてこちらを見た。


円士郎もつられてこちらを振り返って──

私に気づき、何か父上に言おうとしていた言葉を呑み込んだように、パクパクと口だけ動かした。



「?」

私は首を傾げて、


こんな出来事があってから数日後に──



ついに、恐れていた現実が、私の前に突きつけられた。

< 653 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop