恋口の切りかた
その日の夜はなかなか寝つけず、

俺は自室を出て、庭を歩いていた。




池の前で、視界に白いものが映った。


池のそばに座り込んで、真っ黒な水面を見つめていたのは

寝間着姿の留玖だった。


声をかけようか迷いながら留玖に近づくと、




震えている細い肩から、押し殺した嗚咽が聞こえてきた。


「留玖……お前、泣いてんのか──?」


驚いた俺が声を発すると、

びくっと、留玖の肩が大きく痙攣して、弾かれたように彼女がこちらを振り向いた。


「エン!?」


留玖は大きな瞳に涙をいっぱい溜めて俺を見上げて、

バッと立ち上がった。


「留玖……?」


立ちつくす俺の前で、

留玖はおびえたように一歩、二歩と後ずさった。


その目からはポロポロと大粒の涙がこぼれ落ち続けていて──


「どうしたんだよ……留玖、なんで泣いてるんだ……?」


俺は胸を締めつけられるような

堪らない気分になって、彼女に手を伸ばした。
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