恋口の切りかた
俺の手が届く寸前で、留玖は素早く身をかわした。


手が空をきって、


何故か唐突に、

俺は今日、道場で彼女に負けたときに
同じように俺の木刀が届かなかったのを思い出した。


「なんで……?」

濡れた目で俺を見据えて、留玖は
か細い声で訊いてきた。

「なんで、そんなこと言うの?」


そんなこと?

そんなこと、ってなんだ?


俺は泣いている留玖に狼狽して、


「エンは──エンは、風佳と一緒になるんでしょ……だって、昼間エンは……」


──昼間?


留玖の言葉でようやく思い出して、すうっと背筋が冷えた。


俺は……町で、留玖とどういう別れ方をした!?

あの時、

自分の決心で頭がいっぱいで、
俺は留玖の手をふりほどいて



──置き去りにした。



行かないでと言った留玖を。



馬鹿野郎……!!

俺は自分を殴りつけたくなった。



それから、涙に濡れている留玖の白い頬を見つめた。


「留玖……お前、それで、一人で泣いてたのか?

俺と風佳の婚儀が嫌で、泣いてたのかよ」


泣くほど嫌で……?

それでこうして、声を殺して一人で泣いてたのか──。


風佳に同じ質問をした時とは違った衝撃が広がって──鼓動が早まるのを感じた。
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