恋口の切りかた

 【剣】

円士郎に抱き寄せられて、

抱きすくめられて、

私は必死に逃れようとしたけれど、円士郎はきつく私を抱きしめたまま放してくれなかった。


「なんで!」


私は泣きながら叫んだ。


「なんでこんなことするの!?」


昼間、円士郎は私の手をふりほどいたのに
私は円士郎に置いてかれたのに
円士郎は風佳と一緒になるのに

円士郎は、

円士郎は、

円士郎は──



私の、兄上だから優しくしてくれる。

私が妹だから、こんな風に優しくしてくれる。


それだけで感謝しなくちゃいけないのに、

私は、それで十分だって思わなくちゃいけないのに……



そう思おうとすると、こんなに苦しくなる──。



実際、今の円士郎は息もできないくらい強く私を抱きしめていて、

「留玖」

耳元で、円士郎にいつになく熱を帯びた声で囁かれて──

「留玖……」

もう一度、彼が耳元で繰り返すのを聞いて、



私は、ぎくりとした。



これまで何度か円士郎に優しく抱きしめられた時とは、何かが決定的に違っていた。
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