恋口の切りかた
「エ……エン?」

円士郎の顔を見上げようと藻掻いたけれど、
顔を彼の肩の辺りに強く押しつけられていて動かせなかった。

「留玖……」

円士郎は熱っぽく私の名前をもう一度呼んで、

「俺はお前を置いて行ったりしない」

そう囁かれて、私は頭が真っ白になった。



「ずっとお前のそばにいる」



円士郎の手が、私の頭を撫でた。



「────っ」

鼓動が跳ね上がって、

円士郎から逃れようとしていた力が、全身から抜けていく気がした。


「エン……」

離れたくない──
私もずっとそばにいたい──

彼を押しのけようとしていた手を、円士郎の背に回して


気がつけば、

ぎゅっと

彼の着物を握りしめていた。



どれくらい、そうしていたのか



円士郎が力を緩めて、
少し身を離して

彼の手が私の頬に伸びて、こぼれ落ち続けていた涙を拭うようにそっと頬を撫でて──

円士郎の指が
私の唇に触れた。




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