恋口の切りかた
円士郎の手が、私の顔を上に向けさせて、

暗がりの中、私を見つめる優しい目と視線が合って。



留玖、と円士郎がまた私の名前を呼んだ。



理性を全部持って行かれるような声だった。
抗う気を根こそぎ奪われて、流されていくような。



円士郎が、顔を寄せてくる。



私は、
何も考えられなかった。

自分が何をされようとしているのか、
今ここで円士郎の行為を受け入れることがどういうことか──


私を養子にしてくれた結城家に対する、

どれほどの裏切りか──


このときは何もわからなくなって、




ただ、円士郎の腕に身を任せた。







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